夏が始まる頃、近所の道を歩いているといきなりカラスに頭を攻撃されました。
すぐ近くの巣で子育てしているカラスです。
オスかメスかはわかりません。
どちらにせよ、ただ歩いているだけの人間が、ヒナを狙うハンターに見えてしまうのでしょう。
子への愛情が、親の闘争心に火をつけたかのようです。
子育て中のカラスは、母も父も強いのです。
哺乳類のお母さん、燃えさかる闘争心
哺乳類の動物は、お母さんの負担が圧倒的に大きいです。
お腹の中で赤ちゃんを成長させ、お乳を与えて育てるからです。
「どうぶつ奇想天外!」では「母は強し!」というシーンを何度も捉えてきました。
その中に、子を守る母親同士の戦いを記録したものがあります。
「チーター母がトピの子供を狩る!しかしトピの母が反撃!子を守る母同士の戦いの結末は?」
チーターはお母さんだけで子育てをします。
生後4ヶ月のひとり娘を連れた母チーター。
子供は元気いっぱい、甘えたり走り回ったり、かわいい盛りです。
親子は獲物を求めて20kmも移動し、お腹はすっかり空っぽになりました。
子供にとってはそろそろ限界です。
降りしきる雨の中、ようやく獲物を発見。
大型の草食獣トピの親子です。
お母さんチーターはトピの子供だけに照準を合わせ、見事に捕らえました。
娘に食べるように促す母。
貪欲に喰らいつく娘。
子供が殺される…
トピのお母さんはチーター母娘に向かって突進しました。
それに立ち向かう母チーター。
トピの角に一撃されればチーターは死ぬかも知れません。
でも、彼女だって娘の命がかかっているのです。
緊迫のにらみ合いが続き、母親同士の闘争心が燃え上がります。
食べる者と食べられる者、それぞれの母がわが子のために命を賭ける、胸が痛むシーンでした。
人間でも言いますね。
「女は弱し、されど母は強し」(ヴィクトル・ユーゴー)。
チーターのお母さんは、すごいです。
人間のお母さんも、すごい
人間のお母さんも、すごいです。
26年前ですが、私にも経験があります。
母親は赤ちゃんがぐずるとすぐに反応する、おしめが濡れているらしいと気づく、ちょっとした体調の変化も見逃さない・・・。
男親には真似ができません。
これらは「愛と信頼のホルモン」と言われるオキシトシンが大きく関与しています。
出産では、脳下垂体からオキシトシンが大量に分泌され、陣痛が始まります。
オキシトシンのおかげでお母さんはお乳を出し、赤ちゃんとの愛情をグイッと深め、強い絆で結ばれていきます。
男性は出産も授乳もしません。
この時期、男親と女親の違いは、歴然としています。
母は強し。
愛があるから、お母さんは闘う
「愛と信頼のホルモン」オキシトシン。
母親が、わが子への愛情ゆえに周りが敵に見えてくることは、さまざまな実験でわかっています。
愛情と闘争心はウラオモテなのです。
人間のお母さんは、仕事にかまけて育児に参加しない夫に対して、敵意を向けることがあります。
これも経験があります。
夫から赤ちゃんを守ろうと、立ち向かうのです。
その時は「なんで?」と不満に思いました。
けれど、2015年になってから「生命38億年スペシャル“人間とは何だ…!?”」の制作過程でオキシトシンのことを勉強したら、とてもよく理解できました。
育児への参加が足りないお父さんは、疎外感を感じたとしても、腹を立ててはいけません。
闘うお母さんに仲間がいないのは「不自然」
そもそも、人間はチーターなどとは違い、進化的に母親が一人で子育てをするようにはできていません。
人類の歴史を遡れば、家族や仲間たちが力を合わせて子供を育てる時代が数百万年も続いてきたのです。
お母さんが一人で赤ちゃんを抱えれば、産後うつや育児ノイローゼになってしまいます。
最近、父親の育児休暇が取れる会社が増えてきたのは良いことです。
仕事中毒患者の巣窟だったテレビの制作現場も、ここ数年で、ずいぶん人間らしくなりました。
赤ちゃんを守ろうと闘う母、それを支える家族や仲間たち。
これが、人間本来の「自然」な姿なのだと、子育てがすっかり終わった今頃になって、思うのです。