どうぶつ

80頭の群れを率いる「ボス猿」のメンツとホンネを見る…羽仁進監督という異才

アフリカのサバンナにバブーンというサルがいます。
標準和名はサバンナヒヒ。
草原で草や木の実、虫などを食べて群れで暮らしています。

出会ったのは80頭の大所帯。

群れを率いるボスは体が大きく、いかつい凄みのある顔をしています。

近くに3頭の若いチーターを見つけると、突進して蹴散らしてしまいました。
勇敢な姿を見せることで群れの仲間は安心し、ボスのメンツも保たれるのです。

でも、それは簡単なことではありません。

「どうぶつ奇想天外!」の人気シリーズ「羽仁進のマザーアフリカ」には、そんなボスが登場します。

【チーターvs巨大猿】バブーンのボスは80頭の家族を守るため肉食獣に立ち向かう!(羽仁進のマザーアフリカ⑤)

チーターがインパラに狩りを仕掛けました。

インパラはバブーンの群れの中に逃げ込みます。
ここなら安全だと思ったのでしょう。

それでも、チーターは近づいてきます。
こんどは、バブーンの群れが危ない。
ボスは緊張しています。
このチーターは手強そう。
でも群れの仲間が見ているので、弱っちい姿は見せられません。
チーターに突進するしかない。
でも怖い。

心の葛藤が伝わってきます。

動物たちの心を読み解いていく。
羽仁進監督ならではのドキュメンタリーです。

羽仁進監督(1995年ごろ)

羽仁進監督は1928年(昭和3年)生まれ。
若い頃はドキュメンタリー映画や劇映画を撮り、いくつもの国際映画祭で受賞しています。
その後、野生動物ドキュメンタリーに転じました。

「羽仁進のマザーアフリカ」は、その最後のシリーズです。

このシリーズはYouTube「どうぶつ奇想天外/WAKUWAKU」に何本も公開されています。

羽仁進作品の特徴。

それは、「動物たちの気持ちがわかる」こと。

アフリカ・ロケの収録素材を見たことがあります。
カメラマンに指示を出す羽仁監督の声が入っています。
動物の気持ちを読み、これからどういう動きをするのかを予測し、カメラマンにそれを狙うように指示を出す。

その読みは、見事に当たるのです。

毎回のように当たるのは、とても不思議でした。

なぜ、動物たちの気持ちが読めるのでしょうか?

“永遠の子供” だけに見える世界

羽仁進少年は、小学校3年生まで学校に行かず、林のなかで虫やトカゲなどあらゆる生きものと向き合って過ごしたそうです。

そんな“変わった子供”は、動物たちを尊敬し、動物たちから学び、そのまま大人になった。

永遠の子供である彼は「動物たちと気持ちが通じ合う」と、嬉しそうに話します。

それに、自由です。

羽仁さんは「あらゆる“主義”や“イズム”が嫌い」と言います。
なぜ、生きものがそんなもののいうことを聞かなくてはいけないのか?

異才です。

番組にとって、異才は宝です。

私は、監修の千石正一先生と相談をした上で、「羽仁進のマザーアフリカ」を「特別区」にしてお任せすることにしました。

「特別区」とは何か?

番組ルールの適用外にするということです。

羽仁進監督に “外交特権” ?

「どうぶつ奇想天外!」はバラエティ番組ですが、科学番組でもありました。

「動物の気持ちがわかる」に対してツッコミたくなる専門家はいるでしょう。
研究者から、実証的じゃないと言われるかも知れません。

ですが、アフリカで野生動物と向き合ってきた経験は群を抜いています。
現地でのネットワーク、情報量も豊富です。

羽仁監督の切り口は、自然からのメッセージを鋭くとらえている。
見てもらえればわかる、と思っていました。

だから、「羽仁進の」署名記事という枠を作り、監督の感性のままに自由にやってもらうことにしたのです。
その方がずっと面白くなる。
これは、千石先生も納得の判断でした。

サルの群れにボスはいない?

この「特別区」は、用語にも現れています。

例えばこの動画の「ボス」という表現。

バブーンは母系社会
オスの第一位

研究者の中には、サルの群れに「ボス」はいないという考え方をする人がいます。
バブーンやニホンザルは母系社会です。
力の強いオスの「第一位」はいるけれども、彼は群れ全体を統率しているわけではない。
この番組でも通常は「第一位」などと表記していました。

でも、このバブーンの場合、「ボス」だからおもしろい。
バブーンの群れの解説をしているのではなく、エピソードを読み解いているのだから、これで良いのです。

仲間からの視線を浴びるボス
迫るチーター

「羽仁進のマザーアフリカ」はこうして存在感を高めていきました。
自由で楽しい動物ドキュメンタリー・シリーズです。

遊びながら、学ぶ。
学びながら、遊ぶ。