ハイエナには、サバンナを徘徊して死肉をあさり奪い取るという、悪いイメージがついてまわります。
でも、実際に彼らの暮らしを撮影していると、素敵な発見がたくさんあります。
YouTube「どうぶつ奇想天外/WAKUWAKU」では、ハイエナのちょっと意外なエピソードをご紹介しています。
ハイエナは女系の階級社会
ハイエナの群れは、厳しい階級社会です。
子供のうちは平等ですが、大人になる時に母親の順位を受け継ぎます。
メスの順位がオスよりも上なので、群れの第一位は「女王」です。
「女王」の娘は、大人になる時に第二位になります。
オス猿のように順位争いを勝ち抜いてきたわけではありません。
だから群れは平和そのものです。
上下関係は、そのままエサを食べる順番になります。
誰がハンティングの功労者であっても、食べ始めるのは「女王」から。
順位に従ってメスが優先。
オスは後回しです。
ハイエナはあいさつを欠かしません。
目下の者が目上の者に礼儀正しくあいさつをする。
子供たちもちゃんとやります。
ハイエナは障がい者に優しい
群れの中に、左後脚の先を失ったハイエナがいました。
彼女はハンティングに参加できませんが、ちゃんと生きています。
群れのみんなが、ハンデがある彼女を支えているのです。
ライオンの群れでは考えられないことです。
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ハイエナの社会性は、かなりしっかりしています。
そんなハイエナ社会にも、モメごとは起きました。
ハイエナ「女王」に求められる “矜持”
ある日のこと、順位の高いメスが獲物の肉をくわえて意気揚々と走っていました。
順位の低いものが走り寄っておねだりしますが、もちろん分けてもらえません。
と、そこへ2頭のライオンがやってきました。
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あわてたハイエナ「女王」は、エサを放り出して逃げ出しました。
ライオンたちは難なく横取りに成功。
ハイエナとライオンは宿命のライバル。
「女王」は敵前逃亡したのです。
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それを見ていた仲間のハイエナたちは、「女王」に冷たい視線を送ります。
やがて順位の低い一頭が、責めるように彼女に迫ります。
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逃げる「女王」。
それを追い始めると、そこに他の仲間も加わり、ついには制裁に発展していったのです。
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ハイエナの社会でも、敵前逃亡はみっともないようです。
こともあろうにライオンに対して、我らが「女王」のなんと情けないことか!
人間もハイエナも…支配階級に求められること
人間の社会。
ヨーロッパには、ノーブレスオブリージュ(尊き責務)という考え方があります。
身分の高い者は道徳的な責務を負うということ。
塩野七生著「ローマ人の物語Ⅳ〜Ⅴユリウス・カエサル」を原作に、特別番組を作ったことがあります。
古代ローマで相次ぐ戦争。
貴族たちは兵を率いて戦争の最前線で異民族と戦い、国を守る。
年老いた元老院議員は息子を前線に送り出す。
当然、戦死も多かったようです。
塩野七生さんはノーブレスオブリージュを「他者を守るために体を張る行為」と書いています。
支配階級の責務。
これが古代ローマを強くし、1000年にも亘る繁栄に寄与した。
その伝統が、ヨーロッパ階級社会の文化になりました。
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ハイエナ「女王」は、ノーブレスオブリージュ(尊き責務)を放棄した。
下位の者たちは、体を張ってライオンに立ち向かって欲しかったのかもしれません。
仮に「女王」がライオンに足を食いちぎられたとしても、仲間たちは敬意を持って受け入れたでしょう。
「女王」に制裁!ハイエナらしい“健全な”社会
古代ローマとハイエナ社会を結びつけるのがひどく乱暴なことはわかっています。
古代ローマの責務は人間が作り出した文化、ハイエナの行動は遺伝子に刻まれたプログラムです。
でも、ハイエナの順位も古代ローマの階級も、親の地位が世襲されるところが似ていますね。
そこに同じような力学が働く。
「特権階級なんだからさ、それらしくちゃんとやってくれよ!」
仲間のために体を張れない「女王」は、ハイエナだって許せないのでしょう。
こう考えると、ライオンから逃げた「女王」に制裁を加えた下位のハイエナたちは、健全なやり方をしたと思えるのです。
ハイエナが少し好きになりませんか?