「どうぶつ奇想天外!」がスタートしたのは1993年10月。
プロデューサーの私は37歳でしたが制作スタッフ最年長でした。
6〜7割が若い独身男性だったので、動物たちの開放的すぎる恋愛模様に興味津々。
文献から面白そうなネタを見つけては、撮影に出かけました。
そのひとつが、ブルーギルの繁殖行動です。
【恋の無法地帯】琵琶湖でブルーギルの繁殖に密着した貴重映像!妨害、なりすまし、何でもありの超絶バトル
ブルーギルにも厳しい“恋愛格差”が!
初夏、琵琶湖の浅瀬ではブルーギルの恋の季節が始まっていました。
たくさんのオスたちが、尾びれを振って湖底の砂を掘り、すり鉢状の巣を作っています。
立派な巣を作らないとメスに相手にされないので、必死です。
たくさんの巣が密集しているので、となり同士ケンカが始まり、すでに大変です。
そこにメスたちがやって来ると、巣の品定めをはじめます。
「どの巣にしようかな…?」
メスたちはそれぞれ気に入った巣のオスと意気投合。
その巣に産卵し、オスは精子をかけて受精させます。
その後、オスは受精卵がふ化するまで、ゴミを掃除したり新鮮な水を送ったりして、大切に育てるのです。
ここに恋愛ドラマが生まれます。
当然のことですが、立派な巣を作れる大きなオスの方がモテます。
だから、たくさんのメスに産卵してもらえるオスと、お嫁さんが1匹も来ないオスの間に、激しい「格差」が生まれます。
ブルーギルの「恋愛格差」です。
ですが、小さいオスの中にも意外な方法で、この「格差社会」を生き抜く者たちが出てきます。
“恋愛弱者”は負けていない!その奇襲作戦とは…?
格差社会を生き抜く方法。
それは、最初から、この「巣作り競争」に参加しないやり方です。
巣を作らずに、子孫を残す戦略とは…?
そのひとつはスニーキング(しのび寄り)。
巣の中でメスが産卵した瞬間に、どこからともなく現れて、素早く精子をかけて逃げていくオスの戦略です。
体は小さくてぜんぜんモテないけれど、素早さでは誰にも負けません。
もうひとつは女型(おやま)戦略。
姿形はメスそのものなのですが、実はオス。
巣の主が油断していると、本物のメスが産卵した瞬間に精子をかけて逃げていきます。
要するに、メスが産卵した瞬間に、先に精子をかけてしまえば勝ち。
一瞬の勝負です。
結果的に、そういう遺伝子もまた、子孫に引き継がれていきます。
人間から見ればズルいかも知れませんが、そもそも彼らにはルールがありません。
野生動物の世界では強いオスの遺伝子だけが残っていくと思われがちですが、実際はそうでもないのです。
弱いオスでも子孫を残すことができる。
ブルーギルという種の中にも、多様性があるのです。
いろんな奴がいてもいいじゃないか、という微笑ましい話ですね。
強い者の意表を突くから、面白い。
少しばかり、人間臭くもあります。
この頃、「スニーカー戦略」とか「女型戦略」とか、研究者がつけたネーミングが面白くて、私たちは飲み屋で盛り上がったものです。
「恋愛は戦略」という冷めた視点が新鮮だったのかもしれません。
動物番組を始める前は、恋愛はロマンチックで夢のあるものだと思っていたけれど、実際の自然界ではもっとリアリスティックで合理的なものだった。
この頃のスタッフの素直な驚きが、番組に反映されています。
1996年の放送ではブルーギルの恋愛模様を擬人化。
もんたとか純次とか満里奈とか番組出演者の名前をつけて、恋のバトルを恋愛コメディに仕立てました。
今では動物を擬人化しすぎるのはよくないということで、YouTubeに公開する際に差し替えました。
ちなみに、ブルーギルは2005年に特定外来生物に指定されています。