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傷ついた野生のペンギンを助ける?助けない? その微妙なラインとは?

「どうぶつ奇想天外!」では、しばしば野生動物の救出ドキュメントを放送しました。

オーストラリアで交通事故にあったワラビーなどを救う獣医師、インドネシアで親を殺された幼いオランウータンを保護してリハビリテーションを行う施設…。

人々の愛情によって動物たちが癒され、生命力を取り戻していく姿が印象的でした。

その一方で、私たちは、傷ついた野生動物を目の前にしても、手を出さない場合もあります。

人間が介入するかしないか。そこには、微妙なラインがあるのです。

ペンギン父さんの凄まじい家族愛

YouTubeチャンネル「どうぶつ奇想天外/WAKUWAKU」にあるこの動画は、その意味でも反響が大きかった作品です。

【感動】イワトビペンギンを海獣が襲う!父さんたち命がけの壮絶子育てを追った」

1995年11月、アルゼンチンの東600km沖にあるフォークランド諸島でイワトビペンギンの繁殖地(コロニー)を取材しました。

そこは荒れた海から断崖の岩場を120mも登った、天敵が少ない場所。

強風が吹き付ける中、6000羽のイワトビペンギンたちが密集していました。

卵が孵る10日ほど前になると、オスたちは崖を降りて海に出かけ、お腹いっぱいに魚やイカを詰め込みます。

ヒナの誕生に合わせて巣に戻り、吐き戻して餌を与えるのです。

その間、パートナーのメスは何も食べずに、卵を温めて待ち続けます。

無事に巣まで戻ることができれば、生まれたばかりのかわいいヒナに餌を与える喜びが待っています。

そんな家族の姿はとても幸せそう。命たちが輝いて見えます。

海からコロニーに集団で戻り…

生まれたばかりのヒナに餌を与えます

しかし、海からの帰路には、恐ろしい天敵が待ち構えています。

オタリア(アシカの仲間)に襲われて命を落としたお父さんペンギン。

彼の妻は、夫と同時に、生まれたばかりのヒナの命も失うことになります。
お腹をすかせた母親は、エサをねだる我が子に何もしてやれないのです。

次々に崖から飛び降り、オタリアから辛うじて逃れたペンギンたち。

その中に、足に深い傷を負って動けなくなったペンギンがいました。
足はパンパンに腫れ上がり、流血しています。

彼は、自分を待つ家族のために、巣を目指して必死に歩き始めました。少しずつ、前へ。

その”使命感”は凄まじいエネルギーを放ち、見るものを惹きこみます。

しかし、巣への道はあまりに険しく急すぎます。

やがて、彼は力尽きたのでした。

天敵の侵入を拒むペンギンたちのルートが、彼の前に絶壁のように立ちはだかりました。

放送当時、大きな反響を呼びました。

「感動した」という多くの賛辞に混じって、少ない数ですが、「なぜ、助けない?」という抗議の電話や手紙が舞い込んできました。

なぜ、助けないのでしょうか?

その答えは、「そこは自然が守られているところだから。」です。

番組がスタートしてまもない頃、監修者の千石正一先生に教えてもらいました。

ペンギンの死体はカモメなどの餌になります。死んだ生きものの体は、別の命を支えます。

自然が保たれていれば、命は循環していきます。

大自然では、いつも生と死のドラマが繰り広げられていて、食べたり食べられたりしながら無数の命が絡み合い、生態系が出来あがっています。

人間が手出しをすると、生態系を崩してしまう危険があるのです。

かわいらしい野生動物が死にそうな時、「助けてあげて!」という声に従った方が好感度が上がるかなと思うこともあるのですが、そうも行きません。

動物保護区では特別な許可を得て、規則を守って撮影をします。
野生動物に許可なく手出しはできません。

自然の姿を変えないようにするのは「当然のこと」なのです。

助ける?助けない?そこには微妙なラインがあった

でも、タンカーが座礁し、海に流出した原油が海鳥を苦しめる時には、保護します。

それは、人間が自然を壊したから。

壊したものをできるだけ元通りにするため、保護活動に転じるのです。
オーストラリアで車にはねられたワラビーを助けるのも、同じ理由です。

このような線引きについては、さまざまな意見があると思うのですが、「どうぶつ奇想天外!」はこういう基準で放送していました。

最近のことですが、2019年から20年にかけて、オーストラリアの大規模森林火災で6万頭ものコアラが死んだり怪我をしたりしました。

これは、助けなければなりません。
地球温暖化が原因とされるからです。

※イメージ

でも、少しだけ微妙なところもあるのです。

1990年代にオーストラリアで制作されたドキュメンタリー番組。

そこには、落雷によって野火が起きると、辺り一面が灰になり、それをきっかけに花を咲かせたり種を撒いたりして復活再生する植物の営みが描かれていました。

この地の生きものたちは、太古の昔から、山火事に適応して進化してきたのです。

定期的に山火事が起きることを、遺伝子に刻み込んだものたち
彼らはまるで、山火事の再来を喜んでいるようにも見えるのです。

驚きでした。稲妻による山火事は大自然の営みの一場面。

だから「消せば良い」という単純なものでもなかったのです。

いずれ、みんな救わなければならなくなる?

それにしても近年、オーストラリアでこれほど大規模な山火事が頻発するのは、異常気象による乾燥化が原因です。

それが、人類が排出した温室効果ガスによるものだとすれば、人間の野生動物保護活動の範囲はどんどん増えていきます。

この大陸全体が砂漠化に向かっているという説もあります。
もしもそうなればどこまで助けることができるのか、途方にくれてしまいます。

火傷を負ったコアラと温室効果ガス。

地球上の自然はみんなつながっています。

番組で紹介したフォークランド諸島のペンギンたち。今のところは自然に任せるのがいちばんのようです。

でも将来的には、オーストラリアのコアラのように「救わなければならない」ことになるかも知れません。

最近は、どこまでが「自然」で、どこまでは「人為」なのか?…線引きは難しいですね。

環境破壊がこのまま進むと、いずれみんな救わなければならなくなるかも知れません。

その時、人間にはそんな余力が残っているのか?そちらの方が心配になってきました。