道でネコが車にひかれて死んでいるのをよく見かけました。
60年ほど前、私が子供の頃の話です。
当時、東京には野良ネコも野良イヌもいたのですが、どう言うわけだか、死んでいるのは大抵ネコでした。
ネコ好きの私は、その度に悲しい思いをしていました。
なぜ、車にひかれるのはネコなのか?
「どうぶつ奇想天外!」をやっている時に、千石正一先生とその話になりました。
なぜ、イヌではなくネコばかりひかれるのか?
千石先生の解説はこうです。
イヌの祖先はオオカミの仲間だと言われています。
彼らは平原に適応した動物でした。
敵に遭遇した時、そこには身を隠す場所がありません。
一目散に逃げた方が助かる確率が高まります。
車という敵に襲われた時にも、そうやって助かる。
一方、ネコの祖先は森で暮らしていました。
敵の気配を感じた瞬間、じっと息を潜めて草木に同化してしまえば、見つからずに済むでしょう。
でも、反射的にうずくまったネコに、車という敵は突っ込んでくる。
だからひかれてしまうのだそうです。
生きものは、それぞれが生きてきた環境に合ったやり方をする。
何万年、何十万年もかけて遺伝子に刻まれているやり方です。
環境の急変には、ついていけません。
ネコの遺伝子は、車社会を1ミリも想定していないのです。
俗に言う「本能」。
それは、人間も同じです。
人間は「本能」に支配されている?
血糖値が高いのに、スイーツがやめられないのはなぜか?
これも「本能」のようです。
人類の歴史は、飢えとの戦い。
食べられる時に溜め込んでおかないと、死んでしまいます。
私たちは皆、飢餓状態を乗り越えた祖先の遺伝子を受け継いでいます。
特に、糖類はすぐにエネルギーになるので、脳が欲するようにできています。
甘味は快感と繋がっているのです。
この「本能」は、飽食の時代が到来しても、簡単には変わりません。
ネコと車の話と一緒です。
先進国で肥満が問題なのは皮肉なことです。
人類の歴史700万年からみると、ここ数十年ほどの変化は激しすぎるのです。
人は掟破りを許さない!これも「本能」
ヒト(ホモサピエンス)はおよそ20万年前にアフリカで誕生しました。
初めは家族や親族だけで行動していましたが、やがて150人ほどの集団で生活をはじめました。
この人数なら、顔見知りのグループでいられます。
みんなで力を合わせて、過酷な自然界を生き延びてきました。
人間の最大の強みは、助け合いです。
仲間を思いやり、共感しあう。
遺伝子に刻まれたやり方です。
そこには掟がありました。
裏切り者、ただ乗り、ずるい奴、調和を乱す者に対しては厳しくしっぺ返しをする。
野生動物としてのヒトにとって、群れの結束が乱れれば共倒れになるからです。
しっぺ返しは、人間の「本能」になりました。
だから、掟破りに対してみんなが攻撃的な気持ちになるのは、自然なことなのでしょう。
太古の昔、群れの中で行われていたしっぺ返し。
時代は下り、活字やテレビやインターネットが登場しました。
どのメディアもスキャンダルと結びつくと、すごく盛り上がります。
スキャンダルは「本能」を刺激する
犯罪事件に怒るのは当然ですし、権力の暴走にブレーキは必要です。
しかし、そうではないのに騒ぎは起きます。
(最近の出来事を思い出してみてください。きっと見つかるはずです。)
週刊誌もスポーツ紙もワイドショーもネット記事も、しっぺ返しの「本能」と相性が良いのでしょう。
「けしからん!」
「放っておけない!」
「許せない!」
人々を巻き込むムーブメントがいくつも起きました。
時には、糾弾の嵐が吹き荒れます。
人間にとって甘いものが快感であるように、スキャンダルも快感なのかも知れません。
甘いものは美味しいけれど、食べ過ぎは体に良くありません。
スキャンダルは面白いけれど、攻撃が加熱すると誹謗中傷につながります。
攻撃する側もされる側も、心がすさんでいきます。
テレビはもちろん、インターネットもパワーが強いので、注意が必要です。
しっぺ返しの「本能」は、この情報化社会を1ミリも想定していないのです。
ちなみに、人間は考えてから行動するように思われがちですが、実際にはほとんど無意識でやっているということが、脳科学の研究でわかっているそうです。